メタボは様々な病気のリスクを上げる〜そして静かなる殺し屋を招く〜

『「なぜ生物は死ぬのか」という問いには 、二つの局面がある。

一つは老化や死の原因を問うもので、二つめは、生物が死ぬべく運命づけられている理由を問うものである。』

小川 眞里子氏は「生物学史から見た死」の冒頭で述べられている。

「なぜ生物は死ぬのか」という問いに興味を持たれた方は、ご一読をお勧めします。

 

さて、厚生労働省の平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況によると平成 30 年の死亡数を死因順位別にみると以下のとおりです。

第1位は悪性新生物<腫瘍>で 37 万 3547 人 、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で 20万8210 人、第3位は老衰で 10万9606 人、第4位は脳血管疾患で10万8165人。

主な死因の年次推移をみると、悪性新生物<腫瘍>は一貫して増加しており、昭和56年以降死因順位第1位となっている。

平成30年の全死亡者に占める割合は27.4%であり、全死亡者のおよそ3.6人に1人は悪性新生物<腫瘍>で死亡している。

心疾患(高血圧性を除く)は、昭和60年に脳血管疾患にかわり第2位となり、その後も死亡数・死亡率ともに増加傾向が続き、平成30年は全死亡者に占める割合は15.3%となってい る。

 

多細胞生物の私たち人間は、個体としての死を免れることはできません。

しかし、どうやら私たちに死をもたらすのは「病気」なのです

そして、それら多くの病気の背後にはある共通する特徴があるようです。

病気へのリスクを高める要因の一つにはメタボがあります。

私たちは習慣によって作られています。

習慣が病気を作るのであれば、習慣を変えることが必要ですね。

これらの病気に共通する特徴

生活習慣病をはじめとした慢性疾患は世界的に急増していています。

世界保健機構 (WHO)では、生活習慣病(がん)などを総称して「非感染性疾患(non- communicabledisease : NCD)」と定義しています。

そして、非感染性疾患(NCD)対策について重要な課題として位置付けています。

生活習慣病は、肥満症や糖尿病を中心とする代謝性疾患(脂質代謝異常や糖代謝異常)動脈硬化や心臓病などの循環器疾患に代表されます。

心臓病や脳血管疾患のような主要な死因の下地になる病気には、糖尿病脂質異常症高血圧高尿酸血症などがあります。

これらの慢性疾患は、先進国だけではなく、発展途上国も含んで全世界的に急増しているようです。

これらの慢性疾患に共通する基盤となる病態として「慢性炎症」が注目されています。

慢性炎症

さて先ず炎症とは何でしょうか?

炎症とは内的・外的ストレスに対する代表的な生体防御反応で、本来は保護的・適応的な応答です。

炎症は損傷あるいは感染に対して体内の組織が起こす免疫応答であり、自然免疫における一つの重要な要素です。

損傷や感染によって入り込んだ病原体をやっつける方法として、まず食べるという殺し方があります。

自然免疫の主な仕事で、主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といった食細胞です。

炎症の過程は生理的な反応を変化させる分子および細胞のシグナルのカスケード(連鎖)によって次々と起こります。

結果としてよく見られる痛み、浮腫、発熱および発赤へと移行します。

この4つの炎症の徴候はケルスス(セルサス)の 4 徴として知られているますが、これにガレノス(ガレン)の提唱した機能障害(動かせないなど)を加えて炎症の5 徴候といいます。

急性の炎症は損傷あるいは感染に伴う体の防御と回復の自然な過程なのです。

 

一過性であることが多く、炎症反応のピークを越えると収束して元の健常な状態が回復されます。

これに対して、非感染性疾患(NCD)において見られる「慢性炎症」は多くの場合、明らかな急性の炎症の特徴を示さないままに低レベルの炎症反応が持続・遷延化します。

これまで異なる機序によって発症すると考えられていた多くの非感染性疾患(NCD)において、慢性炎症として捉えることができる細胞や組織の応答が共通に認められています。

白血球は種類ごとに役割分担があって、どの細胞が刺激されるかによって異なる炎症反応が起こります。

免疫反応は炎症反応が引き金になり、体外からの異物だけでなく私たちが体内で作り出す成分も炎症を起こすことがわかってきています。

どうやら非感染性疾患(NCD)では持続する炎症反応により臓器の機能不全がもたらされるようなのです。

また、多くの非感染性疾患(NCD)の特徴として、加齢とともに有病率が上昇するため、老化と慢性炎症の関連も強く示唆されています。

慢性炎症に関する研究はここ十数年で急速に進みました。

その結果、メタボリックシンドローム心不全腎不全、さらにはアルツハイマー病や癌などの発症や進行と重症化に密接に関わっていることが明らかになってきています。

全身のあらゆる部位や臓器で長期間にわたってくすぶり続け、自覚症状のないまま重篤な病気の発症や促進に影響ます。

疲れやすいといった日々の疲労の蓄積も慢性炎症と深い関わりがあることも指摘されていています。

日常的な健康を維持する上でも慢性炎症への対策がとても重要です。

慢性炎症のメカニズム

慢性炎症のメカニズムは、どのようなものなのでしょうか?

本来、炎症は何らかの理由で細胞が傷ついたときに起き、その細胞が除去され、置換されて、何事もなかったかのように収束していきます。

しかし、生体の状態によっては、炎症が収束せず、同じ刺激を受けてもうまく処理できないという事態が起こります。

同じ刺激を受けてもうまく処理できない事態、つまり炎症が起き、緩やかに且つ長期間にわたってくすぶり続ける状態を慢性炎症と言います。

このくすぶりが白血球や各臓器の実質細胞や間質細胞に悪影響を及ぼし、各臓器の機能障害を招くと考えられています。

メタボリックシンドロームや心不全、糖尿病患者の血液中には、TNFαなどの炎症性サイトカインが増加していて、慢性炎症がこれらの疾患の発症や進展に関わることを示しているとされています。

サイトカインは、からだに異物が侵入してきたときに警報を発する役割として機能します。

適度の量が産生されれば、細胞の感受性を高めて、異物の侵入に対する準備が整います。

しかし作られすぎると、かえって炎症を強めてしまいます。

さらに周囲の細胞にも影響したり、別の場所へ飛び火したりします。

 

慢性炎症と病気

慢性炎症がどのように病気に結びつくのでしょうか?

例えば肥満の状態では、脂肪細胞の大きさと数が増加して、細胞組織が大きくなります。

そうすると軽い炎症が起こり、肥満の度合いが進むと炎症も進みます。

炎症が進むと脂肪組織に集まった、食細胞のマクロファージから継続的に炎症性サイトカインが放出されるようになります。

放出された炎症性サイトカインがTNFαであれば、作用した細胞のインスリンの効力を低下させてしまいます。

インスリンは細胞内への糖の取り込みを促進して、血糖値を下げる働きがあります。

つまり肥満によって慢性炎症が起きて、くすぶることによって炎症性サイトカインが放出され、糖尿病のきっかけを作るということです。

炎症が続くとその組織では細胞が死に始めます。

組織の構造が壊れると周囲から線維成分が入り込んで、硬くなります。

これが線維化という現象です。

本来線維化は、傷ついた組織が治りやすくする過程の一つなのです。

慢性炎症では長期化する炎症が線維化も長期化させ病気のリスクを上昇させます

その結果、組織の正常な細胞が減って、線維成分で置き換えらるため、組織の機能を低下させます。

 

組織の機能が低下した結果、その組織が担っていた役割が果たせなくなります

慢性炎症が背景にあるとされている病気は、一般にもよく知られているものが多いようです。

糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病、がん、自己免疫疾患、潰瘍性大腸炎などです。

まとめ

慢性炎症について概略をお話ししました。

まだ分かっていないことが多いようですが、分かった事実をもとにこれまでとは違う新しい治療法が始まっているものもあります。

治療はもちろん専門機関に任せるとして、今後このブログでは慢性炎症を予防するために何を行うべきかを書いていきます。

運動習慣や食習慣の見直しがはやり必要です。

あなたを作っているのは習慣です。

 

食事についてはこちらを参考にしてください 私たちの身体はほぼ食べたものでできています。体質の改善は食べ物の見直しから!

 

この記事を書くにあたって、以下の書籍を参考・引用させていただきました。

非常に難しい話をわかりやすく書いてくださっています。

ご興味のある方はご一読をお勧めします。

 

免疫と「病」の科学  宮坂昌之・定岡恵 共著  講談社

新しい免疫入門  審良静男・黒崎知博 共著  講談社

 

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