運動は私たちの体や心に様々な影響を与えます。
私たちは本来的に「動物」であって、「静物」ではないので、「動くことの影響」とは何となくおかしな気もします。
理解のために便宜的に分けたからだと心が、実際にからだと心として「ある」と思ってしまうところから、様々な問題が起きているのかもしれません。
「便宜的に」からだと心に分けて、運動の影響をまとめてみましょう。
運動が体に与える影響
運動が体に与える影響は、各研究者により様々なことが指摘されていて、それらのことをまとめてみると大体以下のようになります。
1:心臓の機能や脈管の働きが高まることで体中へ酸素が行き渡り、そのため栄養の補給や血圧の調整にも有効。
2:酸素を積極的に取り入れるようになるため、ガス交換機能(酸素と炭酸ガスを交換する働き)が高まり、効率の良い呼吸ができるようになり、呼吸機能が向上する。
呼吸には内呼吸と外呼吸があるが、その両方の呼吸に影響する。
内呼吸と外呼吸:呼吸と循環のそれぞれの役割によって行われます。
外呼吸(または肺呼吸)は肺から大気中の酸素を取り入れ、血液によって運ばれた二酸化炭素と水を肺から排出する過程を言います。
内呼吸(または組織呼吸)は肺胞で酸素を受け取った血液によって酸素が心臓、肝臓、腎臓、筋肉などの組織に運ばれて利用され、複雑な中間代謝を経て、二酸化炭素を生じる過程です。
3:体を組織している筋肉と脂肪の割合が変化します。
脂肪が減って筋肉の量が増えて、太りにくい体になります。
最近の体重計は、重さを計るだけではなく、筋肉量・体脂肪率などが計測・表示されるので、意識されている方も多いようです。
4:コレステロールなどの血清脂質が減少して、動脈硬化を防ぐ働きのあるHDLコレステロールが増えるといわれています。
このことは、動脈硬化の予防につながります。
血清脂質:血液から赤血球や白血球などの血球成分を取り除いたものを血清と呼び、その血清に含まれる脂肪が血清脂質です。
血清脂質はコレステロール・中性脂肪・リン脂質・遊離脂肪酸などからなります。
HDLコレステロール:余分なコレステロールを回収して動脈硬化を抑える、善玉コレステロール。
血清脂質について更に詳しくはこちら
HDLコレステロールについて更に詳しくはこちら
5:主要なエネルギー源の一つである体の中の糖分 (ブドウ糖)を効率的に利用できるようになります。
このことは糖尿病の予防につながります。
6:運動していると発汗機能が高まるため、体内に熱がこもるのを防ぎます。
またエネルギーの消費が活発になされるため、体温調節機能が向上します。
体温調節機能:恒温動物で、体温をいつもほぼ一定に調節する作用。
大脳にある体温中枢によって支配され、外界の温度が高いときは発汗や呼吸を盛んにして放熱し、低いときは体表の血管を収縮させて放熱を防いだり、筋肉を活動させて体温を上げたりする。
詳しくは、こちら
7:便秘やストレス解消のために有効で、このため消化器機能へ良い影響があります。
8:適度な負荷の運動は、骨に刺激が加わり、骨の強化に影響すると考えられています。
9:適度な運動は、免疫機能を高めるという報告もされています。
運動と免疫:防衛体力のうち、細菌やウイルスなどの生物的ストレス(感染症)に対する抵抗力は免疫系が担っている。
運動によって上気道感染症(かぜ)の罹患率が変化することが知られており、これは運動が免疫機能を変化させる一例と考えられている。
適度な運動は免疫機能を高めて上気道感染症の罹患率を下げるが、過度な運動は免疫機能を低下させ上気道感染症の罹患率を高める
心に与える影響について
運動は気分に様々な影響をもたらすが、なかでも運動が脳の報酬系に及ぼす影響は、ほぼ確実に抗うつ作用につながっている。
週3回の運動を6週間続けると、不安を軽減する脳の領域の神経結合が増える。
また、定期的な運動によってバランスが良くなり、闘争・逃走反応や恐怖反応が起こりにくくなることがわかっている。
運動することによって分泌されるマイオカインには脳の炎症を抑える効果があり、うつ病や不安症の症状の解消につながる。
運動・身体活動には、 不安、うつ、様々なストレス感情の減少、ポジティブな感情の増加などの心理的効果があることが、国際スポーツ心理学会や世界保健機構にも認められていることが明らかになっている。
また、メカニズムについては、βエンドルフィン仮説、自己効力感仮説、セロトニン 仮説など多くの仮説が示されている。
闘争・逃走反応:動物の恐怖への反応で、差し迫った危機的状況において、戦うか逃げるか身動きを止める方法で生き延びてきたため備わったと考えられている。
通常は発揮できない怪力を発揮できる反面、緊急時に使用しない内臓への血流が絞られたり判断力が低下するため、長期的にストレスを受けると体や精神に悪影響が出る。
マイオカイン:2003年に筋肉細胞からサイトカインやペプチドが分泌されることが判明し、これらは「マイオカイン」と呼ばれています。
今では、さまざまなマイオカインが同定されています。
エンドルフィン:脳内で働く神経伝達物質「エンドルフィン」のひとつで、モルヒネと同じような作用をする物質です。
モルヒネの数倍の鎮痛効果があり、気分が高揚したり幸福感が得られるという作用があります。
セルフエフィカシー(自己効力感):カナダの心理学者、アルバート・バンデューラ氏の「社会的学習理論」で登場した言葉で、ある目的に向けて遂行できると自分自身の可能性を認知している状態を指します。
バンデューラ氏自身は、「ある特定の成果を生み出すために必要な一連の行動を体系化し、それを遂行する能力についての信念」と定義しています。
さて運動は以上に示したように、体や心に様々な効果的な影響与える。
これらの事は様々な紙面や媒体で言われていることであるので、この記事では別の角度から運動について光を当ててみましょう。
動きの質が自己への認識を変える、ということ
例えば、冷たいシャワーの水を全身に浴びてみる。
その刹那、あっという間に現実に引き戻される。
どれほど大変な事態に面前していようと、どれほど悩ましい状況に置かれていようと、冷たい水が全身を流れる瞬間に意識は今この瞬間に立ち戻る。
冷たい川の流れに入れば、その効果はもっとはっきりする。
川の流れは、体の周囲にまとわりつく様々な思いや像を一瞬に洗い流す。
体の感覚は常に今この瞬間に生きている。
目を閉じて、自分の体の感覚器が教えてくれる、自分の体の有り様に意識を合わせてみると良い。
冷たいシャワーや速い川の流れに匹敵する鋭い感覚がすぐさま立ち上ってくる。
全身を駆け巡るその感覚こそが、私たちの自分への認識を形作っている大事な情報のありかです。
半ば自動化されてしまって、あまり意識しない私たちの日常の身体の使い方に、その瞬間に動いている体の部分に、動きを支えている体の部分に、それらのまとまった全体に、動くことによって変化した体のすぐ外側の空間に、それらのものに同時に意識を向けられることができれば、私たちの自己への認識は一変する。
私たちは要請された規範や正しさの中に自分の体をまるで鋳型にはめ込むように合わせて生きている。
過去に作られた鋳型、未来のあるべき姿、生きてあるこの体とは関係のない、誰かにとって都合の良い姿に自分を当てはめている。
それによって歪めた自分の体への認識は、様々な問題を引き起こします。
それらに応えている自分のあり方に気づかないまま、それを当たり前のこととして引き受けている。
自分の体と会話をしてみよう。
いつもそうしている体の使い方を、他の多くの選択肢の中から選んだものとして行ってみよう。
他の多くの選択肢から別の方法を選んで行ってみよう。
いつもの体の使い方をいつもの速さの半分で動いてみよう。
ゆっくりとした動きはいつもは見逃している、あなたの体の感覚が教えてくれている大切な情報に目を向けさせてくれることでしょう。
からだの動いていないところに意識を向けてみよう。
きっと様々な気づきを体はあなたに示してくれる。
示された気づきに素直に反応してみよう。
その時の感情やその感情を感じた体の部分を記録してみると、後で振り返ったときにあなたのあなた自身の体に対する探求の深さに気づくでしょう。
動きの質は、どれほどあなたがあなた自身の体を意図的に使っているか、使った体からの情報にどれほど意識を向けているか、今と言う瞬間にあなたがどれほどあるか、による。
そしてその動きの質があなたの自己への認識の質をも変化させます。
さて、あなたはあなた自身への認識をどれほど変えられるでしょうか?
あなたという存在に身体、心、自己への認識、などの異なる方向から光を当てると様々な像が投影されます。
運動は、あなたがいつもの体の使い方とは違うやり方で使うときに、より明瞭にあなたの存在を見せてくれるでしょう。
新しい見方で現れる新しいあなたにきっと驚くでしょう。
しかし、それはあなたが要請された内容の鋳型にあなたを当てはめる前の姿なので、本当はどこか懐かしく感じるかもしれません。
久しぶりに会う自身に、忘れかけていた可能性を見いだすことでしょう。
それはもしかしたらかつてのあなたが他の誰かの言葉によって諦めたあなたかもしれません。
運動は、自らとのつながりを取り戻す大切な手段となります。
自らとのつながりを取り戻したあなたは、きっと微笑んでいることでしょう。
まとめ
運動が心身に与える影響についてお話しました。
からだへの影響では心肺機能の向上、血液の状態の変化、免疫機能への影響などについて。
心への影響では、鬱や不安の減少やマイオカインについてご紹介しました。
また、運動の質の変化によって、からだへの気付が変化するお話をしました。
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